
「………………」
腹の底から響かせた声が頭のてっぺんから抜けていく余韻に浸りながら、心の中で毒づく。
(…………ダッサ)
誕生日を迎えて、もう20代も後半を突っ走るだけって年齢になったのに、いつまでもガキみたいな憧憬抱えているなんて、ダサい以外なにものでもない。
けど、興奮した心も身体もちょっと唾を吐いたぐらいじゃ冷めてくれない。
ふわふわと気持ちがいい。鳥肌が立って、まだ頭が痺れてる。
ゆっくり視線を下ろすと、演奏を終えた玲央も悠も伊達さんもさっさとステージを下りていくのが見えた。
「………………」
今度は少しだけ心が冷える。
(――やっぱ、俺だけ……か)
俺は再び天井を仰いで、息を吐いた。
空っぽのライブハウスの静寂が耳に痛い。静かにゆっくり吐いたため息でも、一番奥の席まで響くんじゃないかってぐらいに。
(……まあ、リハだし? 本番明日だし?)
全力で歌っても意味がないのかもしれない。事実、玲央も悠も伊達さんも、『ノッて』なかった。
なんか本気じゃないなーってのが、歌っている間に覚えた感覚。
リハだからだろうか。でも、前はリハでも本番じゃないのがもったいないぐらい気持ちいい音出してたなーとか考えて、みんなと自分の温度差に気づいた。
(……玲央たちは一足先に『オトナ』になっちまったのかな)
常に全力で走るのも、純粋に音楽に浸れるのも、ガキが持つ若さ故の特権じゃないかって思う。
俺もいい加減、『オトナ』にならなきゃって思いながら、それでも歌う気持ちよさにただただ浸ってる。
(ガキっぽくてダセぇ……)
さすがに彼女もみっともないって呆れるだろうか――なんて考えながら、ステージの袖に控えているはずの彼女へと視線を巡らせる。
「――え?」
しかし、そこに彼女の姿はなかった。
慌てて辺りを見回すが、それらしい姿も影も見当たらない。
(……マジで?)
俺は慌ててマイクスタンドを放り出し、彼女を探すために足を前に踏み出した。
玲央や悠たちと温度差は感じていた。
それは仕方ない。いつまでも同じ熱量で音楽を好きだって気持ち、保っててほしいってのは、俺の我が儘。
(でも――)
彼女も同じように、音楽への熱が――俺の歌に対する熱が冷められるのはつらい。
(我が儘だけど……!)
いつまでも俺の歌をあの熱量のまま好きでいてほしい。
そして、歌う気持ちよさに浸ってぼんやりする俺を許してほしい。
少なくとも。
(いつまでもガキのままな俺を見限らないでほしい――)
そう、走り出そうとした俺の背中から、彼女の声がかかる。
俺の名を呼ぶ優しい声。
「え……?」
びっくりして振り返ると、彼女が反対側の袖からステージへと歩いてくるところだった。
そうして、俺の5メートル手前ぐらいで止まって、にっこりと笑った。
その口がゆっくりと言葉を紡ぐ。
俺の誕生日を祝う言葉を。
「……!」
驚きに言葉がつまる。
上手く反応できずに固まっていると、彼女の後ろから別の人影が出てくる。玲央と悠、伊達さんだ。
「なんて顔してんだよ」
「今日誕生日なの、忘れてた?」
悠の手にはホールケーキを乗せたトレイがあった。
玲央の手には、おそらくそれに立てる予定であろう小さなロウソク。
「忘れてはないけど……」
みっともない声で答える俺を見て、伊達さんがにやっと笑う。
「どうやら、サプライズ成功だな」
ようやく気づく。
「リハで音、ノッてなかったのって……」
「あー、悪い。どうしてもこっちの準備に意識、とられちまってさ」
「……ま、わかるよね」
申し訳なさそうに視線を逸らす玲央と苦笑いを浮かべる悠。彼女と伊達さんは無邪気な面持ちでニコニコ笑ってる。
まず生まれたのはホッと安堵する気持ち。
それから、自分ひとり空回って焦ったりしょんぼりしてたりしたのを思い出して、カァッと顔が熱くなる。
「バッカ! サプライズとお前らの演奏で歌うのと、どっちが嬉しいと思ってんだ!」
「うわっ、なにそれ。サイコーの殺し文句じゃん」
「嬉しいね。もっかいリハする?」
「お前らの体力がもつならな。けど――」
俺は投げ出したマイクスタンドに戻って、口元へとマイクを引き寄せる。
「せっかくのサプライズなんだ。ノッてやる。ありがたく聞きやがれ。曲は『ハッピーバースデー』」
「……お前が歌うのかよ」
さすがの伊達さんも苦笑いを浮かべる。でも、彼女は嬉しそうにニコニコ笑ってた顔を輝かせたので、『スイッチ』が入った。
「今日は俺のためにありがとう」
ライブで客席に向けて放つように、俺のためだけのオーディエンスにそう感謝を述べて俺は歌い出す。
歌い終わったら、彼女に「もっと近くで祝えよ!」って文句言って、悠たちが準備したケーキを味わうんだって心に決めながら。